「当たり前」は一つじゃない~世界の習慣やマナーから学ぶ多様性~
はじめに:私たちの「当たり前」と世界の多様性
私たちは皆、生まれた場所や育った環境の中で、様々な習慣やマナーを自然と身につけて生活しています。「ご飯を食べる前に『いただきます』と言う」「人の家の玄関では靴を脱ぐ」「目上の人には丁寧な言葉を使う」など、こうした日々の行動は、私たちにとってごく「当たり前」のことかもしれません。
しかし、世界に目を向けてみると、私たちの「当たり前」とは全く違う習慣やマナーが存在することに気づきます。食事の仕方、挨拶の方法、人との距離感、公共の場での振る舞いなど、それぞれの国や地域には独自の文化に基づいた多様な習慣があります。
この記事では、世界の様々な習慣やマナーを知ることを通して、子どもたちが自分の「当たり前」を見つめ直し、多様な文化や価値観が存在することへの理解を深めるためのヒントを提供します。異なる習慣を持つ人々との共生について考えるきっかけとして、小学校での多様性や国際理解に関する授業に役立てていただける内容を目指します。
世界の習慣・マナーから学ぶ多様性
世界の習慣やマナーは多岐にわたりますが、その背景にはそれぞれの地域の歴史、宗教、価値観、自然環境などが深く関わっています。いくつか身近な例を挙げてみましょう。
- 食事の習慣:
- 日本ではお椀を持って箸でご飯を食べますが、スプーンやフォーク、手を使って食べる地域もあります。
- 麺類を音を立ててすするのは日本では良いとされることがありますが、他の文化圏ではマナー違反とされることがあります。
- 料理を残さずにきれいに食べるのが良いとされる文化と、少し残すことで「お腹がいっぱいです」「十分なおもてなしをありがとう」を示す文化があります。
- 挨拶の習慣:
- お辞儀、握手、ハグ、頬へのキスなど、身体的な接触を伴うものから、言葉だけのものまで様々です。
- 目を見て話すことが重要視される文化と、目を見るのを避けることが敬意を示すとされる文化があります。
- 公共の場での習慣:
- 乗り物の中で静かに過ごすことが一般的とされる文化と、会話や電話を楽しむことが許容される文化があります。
- 土足で家の中に入る習慣がある国と、玄関で靴を脱ぐのが常識である国があります。
こうした習慣の一つ一つは、その文化の中で人々が心地よく、円滑な人間関係を築き、安全に生活するための知恵や工夫から生まれています。どれか一つが「正しくて」、他が「間違っている」わけではありません。それぞれの習慣には、その文化ならではの理由や意味があるのです。
「子どもの視点から」どう捉えるか
子どもたちは、自分たちの家庭や地域で身につけた習慣を「普通のこと」として認識しています。初めて異なる習慣に触れたとき、子どもたちは「あれ?違うな」「どうしてかな?」という素朴な疑問や、「面白いな」「ちょっと変だな」といった率直な感想を持つかもしれません。
大切なのは、こうした子どもの反応を受け止めつつ、「違うこと」を否定的に捉えるのではなく、多様な「普通」があることを知る面白さや発見に繋げることです。
- 「どうして〇〇の国では、ご飯を食べるときに手を使うのかな?」
- 「日本の『いただきます』や『ごちそうさま』みたいに、他の国にも食事に感謝する言葉はあるのかな?」
- 「私たちが当たり前にしているこの習慣は、いつから始まったのかな?どんな意味があるのかな?」
といった疑問を通して、子どもたちは自分自身の習慣にも目を向け、その背景にある文化や歴史に思いを馳せるようになります。そして、自分たちの「当たり前」が世界のすべてではないことを知り、異なる習慣を持つ人々への興味や、違いを受け入れる心の準備が育まれます。違いを知ることは、相手を理解しようとする第一歩となるのです。
教育現場での活用アイデア
世界の習慣やマナーをテーマに、子どもたちの多様性や平和への理解を深めるための授業アイデアを提案します。
1. 世界の「これ、どうして?」を集めてみよう
- 活動内容: 世界の面白い、あるいは自分たちの習慣と違うマナーや習慣を写真や動画、絵本などで紹介します。子どもたちに「これを見て、どんなことを知りたい?」「どうしてこうするのかな?」といった疑問や感想を発表してもらいます。
- 問いかけ例:
- 「この写真を見て、気づいたことはありますか?」
- 「私たちが普段していることと、違うところはどこでしょう?」
- 「どうしてこの国の人たちは、このような習慣をするのだと思いますか?(答えを知らなくても良いので、自由に想像してみよう)」
- 「もし、私たちの国でもこの習慣をすることになったら、どんな気持ちになるかな?」
2. 自分の家庭や地域の「当たり前」を探検しよう
- 活動内容: 子どもたちに、自分の家庭や地域で当たり前に行っている習慣(食事のルール、挨拶の仕方、お風呂に入る順番など、小さなことでも良い)を家族に聞いたり観察したりして発表してもらいます。クラス内で発表し合うことで、身近なところにも多様性があることを感じてもらいます。
- 問いかけ例:
- 「あなたの家では、ご飯を食べるときにどんなルールがありますか?」
- 「登校するとき、地域の人にどんな挨拶をしていますか?それはどうしてですか?」
- 「家の中で、家族みんなが守っている大切な習慣はありますか?」
- 「どうしてその習慣が生まれたのか、お家の人に聞いてみましたか?」
3. 異なる習慣を持つ人が出会ったら?(ロールプレイング/話し合い)
- 活動内容: 異なる食事の習慣を持つ二つの文化圏の人が、一緒に食事をする場面などを設定します。「手で食べる文化の人」と「箸で食べる文化の人」が、お互いの習慣を見てどう感じるか、どうすれば気持ちよく一緒に食事できるかなどを話し合ったり、簡単なロールプレイングをしたりします。
- 問いかけ例:
- 「もしあなたが、違う習慣を持つ人と一緒に何かをすることになったら、どんなことに気をつけたいですか?」
- 「相手の習慣を大切にするって、どんなことだと思いますか?」
- 「『違い』があることで、困ることはどんなこと?逆に、良いことはどんなことでしょう?」
- 「どうすれば、違う習慣を持つ人とも仲良く過ごせるかな?」
4. 調べ学習で深める世界の文化
- 活動内容: 興味を持った国や地域の習慣について、図書館やインターネットで調べ学習を行います。発表会形式で共有することで、クラス全体で世界の多様な文化に触れます。調べた習慣が生まれた背景(気候、歴史、宗教など)も合わせて調べると、より理解が深まります。
- 問いかけ例:
- 「どうしてこの習慣が生まれたのかな?その国の歴史や自然と関係があるかな?」
- 「この習慣には、どんな大切な意味が込められているのかな?」
- 「もし、私たちがこの国に行くとしたら、どんなことに気をつけると良いでしょう?」
まとめ:違いを知ることが、認め合う第一歩に
世界の多様な習慣やマナーを知ることは、単に面白い知識を得るだけでなく、私たち自身の「当たり前」を相対化し、異なる文化や価値観への理解を深める大切な機会となります。子どもたちが「違う」ことに対して好奇心を持ち、その背景にある理由や意味を探求する姿勢を育むことは、違いを認め、尊重する心を育む土台となります。
自分の習慣を大切にしながらも、他の人の習慣にも敬意を払うこと。こうした姿勢は、身近な人間関係から、世界中の人々との関わりに至るまで、平和で豊かな共生社会を築く上で欠かせない力となります。ぜひ、子どもたちと一緒に世界の様々な「当たり前」を探求し、多様性の面白さや奥深さを感じていただけたら幸いです。