世界の子どもたちの学校~多様な学びの形から考える平和~
はじめに:身近な「学ぶ」から世界へ
毎日、学校に通い、教室で友達と一緒に学ぶこと。私たちにとっては当たり前のことかもしれません。しかし、世界に目を向けてみると、「学ぶ」という経験は、場所によって、そして人によって、実に多様な形を持っています。そして、残念ながら、学校に行きたくても行けない子どもたちもたくさん存在します。
この記事では、世界の子どもたちの多様な学びの形や教育環境に焦点を当て、それが私たちの身近な「学ぶ」こととどうつながり、世界の多様性や平和といった大きなテーマを子どもたちと考える上でどのような示唆を与えてくれるのかを探ります。小学校の先生方が、子どもたちが自分自身の学びを振り返り、世界に目を向けるきっかけとなる授業を作るためのヒントとなれば幸いです。
世界の学びの多様性:学校の「当たり前」を問い直す
「学校」と聞いて、どのような場所を思い浮かべるでしょうか。多くの人は、教室があって、机や椅子が並び、教科書を使って先生から教わる光景を想像するでしょう。しかし、世界には様々な理由から、このような「当たり前」の学校に通えない子どもたちがいます。
紛争や災害、貧困、遠すぎる通学路、病気や障害、あるいは文化や伝統的な役割のために、学校に行くことが困難な子どもたちがいます。彼らは、家で家族から生活に必要なスキルを学んだり、時には厳しい労働をしながらわずかな時間だけ勉強したり、青空の下やテントの中で授業を受けたりと、それぞれの環境の中で「学ぶ」機会を得ようとしています。
また、学校に通っていても、学ぶ内容は国や文化によって異なります。読み書き計算といった基礎的な学びに加えて、地域の伝統工芸や農業技術、宗教的な教え、平和教育など、その社会で生きるために必要なことが教えられています。「学ぶ」という行為そのものは共通していても、その環境や内容は実に多様なのです。
「学ぶ」ことは、単に知識を身につけるだけでなく、世界を知り、他者と関わり、自分の可能性を広げるための大切な機会です。世界の子どもたちが直面する様々な「学び」の状況を知ることは、教育の機会均等や、すべての子どもが安心して学べる環境の大切さについて考える上で重要な視点を提供してくれます。
子どもの視点から考える「学ぶ」こと
私たちにとっての「学校」が、世界の子どもたちにとっては「当たり前ではない」という事実を、子どもたちはどのように受け止めるでしょうか。
もしかすると、「かわいそう」という単純な感情を抱くかもしれません。あるいは、「どうして行けないの?」「学校がないって、どんな感じ?」といった素朴な疑問を持つでしょう。自分たちが毎日当たり前のように経験している学校生活と、世界の子どもたちの置かれた状況を比較することで、子どもたちは「学ぶことができる」ことの価値を初めて意識するかもしれません。
同時に、青空教室や、家族から学ぶ様子を知ることで、「学ぶ場所は学校だけではないんだ」「色々な学びの形があるんだな」と、学びそのものに対する視野を広げる可能性もあります。
子どもたちは、不公平だと感じる気持ち、誰かの役に立ちたいと思う気持ち、そして自分自身が「学ぶ」ことへの向き合い方を通じて、世界の多様な「学び」の状況と共感的に向き合うことができるでしょう。大人の複雑な政治的・経済的な議論よりも、同じ子どもとしての立場で感じること、想像することに焦点を当てていくことが大切です。
教育現場での活用アイデア
世界の子どもたちの「学び」をテーマに、小学校の授業で多様性や平和について考えるための具体的な活用アイデアを提案します。
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導入:身近な「学ぶ」を振り返る
- 「みんなが毎日学校で学ぶことについて、どんな風に思っていますか?楽しいこと、難しいこと、好きなこと、嫌いなこと、どんなことがありますか?」と問いかけ、学びに対する子どもたち自身の多様な感情や経験を引き出します。
- 「もし、明日から学校に来られなくなったら、どんな気持ちになるかな?」と想像を促し、学ぶ機会が与えられていることの価値について考えるきっかけを作ります。
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世界の学びの多様性を知る
- 写真や短い映像資料を用いて、世界の様々な場所で学ぶ子どもたちの様子を紹介します。(例:難民キャンプの仮設教室、遠距離を通学する子ども、仕事の合間に勉強する子ども、オンラインで学ぶ子どもなど)
- 紹介した写真や映像について、「この学校は、みんなが通っている学校とどんなところが似ているかな?どんなところが違うかな?」「この子どもたちは、どんな気持ちで学んでいるのかな?」といった問いかけを行い、発見や疑問を共有します。
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深く考える問いかけ例
- 「世界には、学校に行きたくても行けないお友達がたくさんいます。それはどうしてだと思いますか?色々な理由を考えてみましょう。」
- 「学校で学ぶことと、その人が将来なりたいものや、幸せに暮らすことには、どんな関係があると思いますか?」
- 「私たちが今、こうして学校で学んでいることは、世界の平和や、色々な人がお互いを大切にするために、どうつながっていくのかな?」
- 「もし、学校に行けないお友達のために、私たちにできることがあるとしたら、どんなことがあるだろう?」
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アクティビティ案
- 「わたしの学びマップ」作成: 子どもたち一人ひとりが、学校以外で学んでいること(お手伝い、習い事、遊びの中での発見など)を書き出し、学びは学校の中だけではないことを意識する。
- 「もし学校がなかったら」想像ワーク: グループで、「もし学校がなかったら、どんな一日になるだろう?」「何を学べなくなるだろう?」を話し合い、絵や寸劇で発表する。
- 世界の教育調べ学習: 国や地域ごとに教育の現状や課題について簡単な調べ学習を行い、発表する。ユニセフなどの団体の活動についても調べる。
- 「学ぶことの大切さ」メッセージ作り: 学ぶことができることへの感謝や、すべての子どもが学べる世界になってほしいという願いを込めたメッセージカードを作成し、クラスや学校で共有する。
これらの活動を通じて、子どもたちは自分自身の学びの経験を振り返り、世界の多様な状況を知り、共感や思いやりの気持ちを育むことができるでしょう。
まとめ:学びが紡ぐ未来と平和
世界の子どもたちの多様な学びの形に目を向けることは、私たちにとっての「当たり前」を見つめ直し、学ぶことの本当の価値を理解する機会となります。学校に通えること、安全な環境で学べること、多様な知識や技能に触れられること、これらは決して普遍的なものではなく、多くの人々や歴史の努力の上に成り立っていることを子どもたちは感じ取るでしょう。
そして、学ぶことが、自分自身の可能性を広げ、異なる文化や価値観を理解し、他者と共に生きるための力を育む重要なプロセスであること。すべての子どもが学びの機会を得られるようになることが、貧困の解消や病気の予防、そして世界の平和や持続可能な社会の実現につながっていくことを、子どもたちの心に静かに伝えていくことが大切です。
このテーマでの学びが、子どもたちが世界に開かれた視野を持ち、多様性を尊重し、平和な未来を築くための一歩となることを願っています。