故郷を離れるってどういうこと?~物語で考える難民の子どもたちの気持ち~
はじめに:世界には、家を離れることを選ばざるを得ない子どもたちがいます
このサイトでは、物語を通じて世界の多様性や平和について学ぶことを大切にしています。今回の記事では、「難民」と呼ばれる人々のこと、特に故郷を離れて別の場所で暮らすことになった子どもたちの気持ちについて、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
「難民」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。ニュースなどで見聞きする機会もあるかもしれません。難民とは、自分の国で起きている戦争や、命の危険に関わるような迫害などから逃れるために、故郷を離れて別の国へ避難している人々のことです。大人だけでなく、たくさんの子どもたちも難民として故郷を離れています。
なぜ、自分の住み慣れた家や学校、友達と別れて、遠い場所へ行かなければならないのでしょうか。そこには、一人ひとりの、そして家族の物語があります。この記事では、難民の子どもたちが経験するかもしれない出来事や、そのときに感じるであろう気持ちに想像力を働かせ、私たちが多様性や平和について考えるヒントを見つけていきます。この情報が、先生方が子どもたちと共に学びを深める一助となれば幸いです。
故郷を離れる子どもたちの物語に触れる
難民となる子どもたちは、決して自分の意志だけで故郷を離れるわけではありません。多くの場合、そこには戦争や紛争、あるいは特定の考え方や立場を持つことによる迫害など、自分たちの力ではどうすることもできない理由があります。安全に暮らすことが難しくなった結果、大切な家族と共に危険な旅に出ることを決断せざるを得ないのです。
故郷を離れる物語は、子どもたちにとって、慣れ親しんだ日常の全てを失う経験から始まります。お気に入りの場所、通い慣れた道、いつもの遊び相手である友達。それら全てに別れを告げなければなりません。見知らぬ土地での暮らしは、言葉や習慣の違い、将来への不安など、多くの困難を伴うことがあります。新しい学校に通い始めても、周りの子どもたちとの違いに戸惑ったり、うまくコミュニケーションが取れなかったりすることもあるでしょう。
しかし、物語の中には、困難の中でも希望を見つけようとする子どもたちの姿や、助けてくれる人々との出会いも描かれています。故郷を離れても、家族との絆や、新しい場所でできた友達との友情は、子どもたちが前を向いて生きていく上での大きな支えとなります。彼らの物語に触れることは、単に「かわいそう」と同情することとは異なります。困難な状況にある人々の経験を知り、共感し、多様な生き方や感情があることを理解することへと繋がるのです。
子どもの視点から故郷を離れることを考える
難民の子どもたちが経験する出来事は、大人の視点で見ても非常に複雑で困難な問題です。しかし、「故郷を離れる」という経験を、子どもたちの身近な感覚に引き寄せて考えてみましょう。
例えば、転校。転校は、難民の子どもたちが経験する厳しさとは全く異なりますが、「慣れ親しんだ友達や学校と別れて、知らない場所へ行く」という点で、子どもたちが感情を想像する手がかりになるかもしれません。転校する時、子どもはどんな気持ちになるでしょうか? 寂しさ、不安、そして少しのワクワクした気持ちもあるかもしれません。新しい学校で友達ができるか心配したり、勉強についていけるか不安になったりするでしょう。
故郷を離れる難民の子どもたちは、転校とは比べ物にならないほど大きな不安や悲しみを抱えています。もしかしたら、友達との別れは突然訪れたかもしれません。新しい場所では、言葉が全く通じないかもしれません。そして、いつか故郷に帰れるのか、あるいはこの新しい場所でずっと暮らすことになるのか、自分では全く分からないという状況かもしれません。
子どもの視点からこれらの状況を想像する時、大切なのは、彼らが感じるであろう「心細さ」「孤独感」「将来への不安」といった感情に寄り添うことです。同時に、新しい環境で小さな喜びを見つけたり、誰かの優しさに触れたりしたときの「安心感」「希望」といったポジティブな感情にも目を向けることが重要です。子どもたちは、理屈ではなく、こうした感情への共感を通じて、他者の経験を理解する第一歩を踏み出します。
教育現場での活用アイデア
難民の子どもたちの物語や、故郷を離れるというテーマは、小学校における多様性や平和、人権に関する学習において非常に重要な教材となり得ます。道徳、総合的な学習の時間、特別活動などで、子どもたちが主体的に考え、話し合う機会を設定することができます。
以下に、授業で活用するための具体的な問いかけ例やアクティビティ案を提示します。
子どもたちへの問いかけ例
- 物語を読んだり聞いたりして、心に残った場面はどこですか? なぜその場面が心に残りましたか?
- 物語の主人公の子どもは、どんな気持ちだったと思いますか? その気持ちになったのは、どんな時ですか?
- もし、あなたが急に家や学校に行けなくなって、知らない場所に行かなければならなくなったら、どんなことが心配になりますか? どんな気持ちになりますか?
- 新しい学校に来た難民の子どもが、友達がいなくて困っているとします。あなたは、どんな言葉をかけたり、どんな行動をとったりしてあげたいですか?
- 世界には、故郷を離れて困っている子どもたちがたくさんいます。私たちが、そんな子どもたちのためにできることは何でしょうか? 小さなことでも考えてみましょう。
- 「難民」という言葉を聞いて、あなたはどんなことを考えますか? 難民の人たちが安心して暮らすためには、どんなことが必要だと思いますか?
これらの問いかけは、子どもたちが物語の登場人物の気持ちに寄り添い、自分自身と重ね合わせながら考えることを促すオープンクエスチョンを中心に構成しています。多様な意見や感情が出ても、否定せず受け止める雰囲気作りが大切です。
アクティビティ案
- 「気持ち想像」ワークシート: 物語を読んだ後、主人公の子どもが様々な場面(故郷を離れる時、船に乗っている時、新しい場所に到着した時、新しい学校の初日など)でどんな気持ちだったか、絵や言葉で書き出したり描いたりするワークシートを作成します。
- ロールプレイング: 「新しい学校に、外国から来た言葉の違う友達が転校してきた」という設定で、迎える側の児童と転校してきた児童の役になりきって、どのように接するかを考え、演じてみます。言葉が通じない場合の工夫なども話し合います。
- 「わたしたちにできること」リスト作り: 難民の子どもたちの状況を知った上で、「困っている世界の友達のために、私たちにできること」をクラス全体でブレインストーミングし、リストにします。募金や支援団体を知ることから、身近な友達に優しくすること、世界の出来事に関心を持つことまで、大小様々なアイデアを認め合います。
- 調べ学習の導入: 高学年であれば、ユニセフなどの国際機関のウェブサイトや、難民に関する絵本、ニュースなどを参考に、難民が発生する原因や、難民を受け入れている国々のことなど、より深く調べてみる学習に発展させることができます。
これらのアイデアはあくまで例です。子どもたちの興味関心や学級の実態に合わせて、柔軟に取り入れてみてください。重要なのは、子どもたちがこのテーマを自分たちの問題として捉え、他者への共感と、多様性を尊重する意識を育むことです。
まとめ:物語から広がる世界の理解と共生への一歩
故郷を離れる子どもたちの物語に触れることは、世界の現実を知ることであり、同時に、困難な状況にあってもたくましく生きようとする人間の強さや、人々の優しさに触れる機会でもあります。
これらの物語を通じて、子どもたちは「なぜ、故郷を離れなければならないの?」という問いから、戦争や紛争、差別といった複雑な問題の存在に気づくかもしれません。そして、「もし自分だったら?」と考えることで、他者の痛みや不安に寄り添う心を育むことができます。
難民問題は、解決が容易ではない大きな課題です。しかし、子どもたちがその存在を知り、故郷を離れた子どもたちの気持ちに思いを馳せることは、世界の多様性を理解し、自分とは異なる立場の人々との共生を目指す上で、かけがえのない一歩となります。
物語から始まった学びが、子どもたちの心の中に、世界の平和を願い、困っている誰かの力になりたいという優しい気持ちを育むことを願っています。そして、その優しい気持ちが、子どもたちの将来の行動へと繋がっていくことを期待しています。