「得意なこと」「苦手なこと」から学ぶ多様性~自分らしさ、そして他者の尊重~
はじめに:身近な「ちがい」から多様性を学ぶ
子どもたちの周りには、さまざまな「ちがい」があります。背の高さ、髪の色、好きな遊び、考え方。そして、「得意なこと」と「苦手なこと」も、誰もが持っている大切な「ちがい」の一つです。
この得意・苦手の多様性は、私たちが自分自身を理解し、他者と関わる上で非常に重要なテーマです。本記事では、得意なこと・苦手なことという身近な違いを入り口として、子どもたちが多様性を学び、自分らしさを認め、他者を尊重する心を育むための授業アイデアを提案します。小学校教諭の皆様が、子どもたちと共に多様性や共生について深く考える機会を作る一助となれば幸いです。
「得意・苦手」の多様性とは何か
「得意なこと」とは、他の人よりも比較的容易に、あるいは上手にできると感じることです。一方、「苦手なこと」とは、難しさを感じたり、あまり気が進まなかったりすることと言えるでしょう。これらの得意・苦手は、生まれ持った性質、経験、興味関心など、様々な要因によって形作られます。
大切なのは、誰もが何らかの得意なことと苦手なことを持っている、ということです。そして、その内容は一人ひとり異なります。勉強、運動、絵を描くこと、歌うこと、友達と話すこと、静かに本を読むこと、片付けなど、その種類は多岐にわたります。
このような得意・苦手の多様性は、個人が持つ個性や能力の多様性そのものです。この多様性を理解することは、自分と友達、そして世界中の人々の違いを認め、受け入れるための第一歩となります。
子どもの視点から見た「得意・苦手」
子どもたちは、日常生活の中で自然と自分の得意なことや苦手なことに気づき始めます。友達と自分を比べ、「すごいな」「自分はできないな」と感じる経験を通じて、他者との違いを意識します。
得意なことがあると、自信を持ったり、友達に認められて嬉しく感じたりします。しかし、時には得意なことで友達に自慢してしまったり、逆に友達の得意なことに対して羨ましさや嫉妬心を抱いたりすることもあるかもしれません。
苦手なことに対しては、恥ずかしい、情けないといったネガティブな感情を持つことがあります。失敗を恐れたり、挑戦することをためらったりすることもあるでしょう。また、苦手なことで友達にからかわれたり、仲間外れにされたりする経験は、自己肯定感を傷つける可能性もあります。
子どもの視点からは、得意なことは「すごいこと」「良いこと」、苦手なことは「ダメなこと」「隠したいこと」と単純に捉えがちです。しかし、誰もが得意も苦手も持っていること、苦手なことがあっても良いこと、そして苦手なことは努力で少しずつ克服できる場合もあれば、誰かに助けてもらうことで解決できる場合もあることを、子どもたちの目線に合わせて丁寧に伝えていくことが重要です。
教育現場での活用アイデア
得意なこと・苦手なことの多様性をテーマに、子どもたちが主体的に学び、考え、互いを尊重する心を育むための授業アイデアをいくつか提案します。
問いかけ例
子どもたちの思考を深め、多様な意見を引き出すための問いかけは非常に有効です。以下にいくつかの例を挙げます。
- 「みんなの得意なことは何かな?どんな時に得意だと感じる?」
- 「みんなの苦手なことは何かな?苦手な時、どんな気持ちになる?」
- 「どうして人によって得意なことや苦手なことが違うんだと思う?」
- 「もしクラスのみんなが、全員同じことが得意で、同じことが苦手だったら、どうなるかな?」
- 「友達の得意なところを見つけたら、どんな気持ちになる?」
- 「自分が苦手なことで困っている時、誰かに助けてもらったことはある?その時、どんな気持ちだった?」
- 「友達が苦手なことで困っている時、あなたに何かできることはあるかな?」
- 「得意なことを活かして、みんなで協力すると、どんな良いことがあるだろう?」
- 「苦手なことがある自分を、どう大切にしたら良いと思う?」
- 「世界には、私たちとは全く違う文化や暮らしをしている人がいるけれど、その人たちにも得意なことや苦手なことはあると思う?どんなことがあるかな?」
これらの問いかけを通じて、自分自身の内面を見つめ、他者の視点を理解し、多様な能力や個性が集まることの価値について考える機会を設けることができます。
アクティビティ案
対話や体験を通じて学びを深めるための活動例です。
- 「わたしのカタログ」作成:
- 画用紙やワークシートを用意し、「わたしの得意なこと」「わたしの苦手なこと」「これから挑戦したいこと」などを書き出す時間を設けます。絵やイラストを加えても良いでしょう。
- 発表の時間を設け、互いの「カタログ」を共有します。自分と友達の違いを知り、「みんな違ってみんな良い」という感覚を育みます。
- 「クラスのすごいところリスト」作り:
- クラス全体で、一人ひとりの「得意なこと」や「良いところ」を付箋などに書き出し、模造紙などに貼り付けて共有します。
- 「〇〇さんは絵が上手」「△△君は友達に優しい」「⬜︎⬜︎ちゃんは計算が得意」など、具体的な行動や能力に焦点を当て、互いの価値を認め合う肯定的な雰囲気を作ります。
- このリストを、何か困ったことや挑戦したいことがある時に「誰に聞いたらいいかな?」「誰にお願いしたらいいかな?」と活用するアイデアにつなげることもできます。
- 「得意なことを持ち寄る協力ワーク」:
- 簡単な共同作業(例:教室掲示物作成、クラス目標設定のための話し合い、簡単な劇の準備など)を行います。
- 作業に入る前に、「この活動にはどんな『得意なこと』が必要かな?」「自分は何が得意だから、この役割をやってみようかな?」と話し合います。
- 活動後、「〇〇さんが△△が得意だったから、これがうまくいったね」「私はこれが苦手だったけど、⬜︎⬜︎さんが助けてくれて嬉しかった」など、互いの得意・苦手を認め、協力することの良さを振り返ります。
- 物語教材の活用:
- 様々な能力を持つ登場人物が登場し、互いに協力して課題を解決する物語や、苦手なことに向き合う主人公の物語などを読み聞かせたり、紹介したりします。
- 物語の登場人物の気持ちを考え、「もし自分だったらどうするかな?」と問いかけ、自分事として多様性や協力を考えさせます。
これらの活動を通じて、子どもたちは自分自身の多様な一面を受け入れ、他者の多様性を肯定的に捉えることを学んでいきます。
まとめ:違いを力に変える
「得意なこと」「苦手なこと」という身近な違いは、子どもたちが多様性を学ぶための素晴らしい入り口となります。誰もがユニークな才能と、助けが必要な側面を持っていることを理解することで、子どもたちは自分自身を肯定し、他者への感謝や尊敬の気持ちを育むことができます。
互いの得意なことを認め合い、苦手なことを補い合うことは、友情を深めるだけでなく、クラスや学校、さらには社会全体において、多様な人々と共に生きる上での基礎となります。子どもたちが、得意なこと・苦手なことといった違いを、隠すものではなく、自分らしさや他者と協力するための力に変えていけるよう、温かいまなざしで見守り、学びの機会を提供していくことが私たちの役割です。このテーマを通して、子どもたちが違いを肯定的に捉え、共生社会の担い手として成長していくことを願っております。