世界の「音」や「しずけさ」ってどんなだろう?~感じ方の違いから学ぶ多様性と平和~
日常の中にある「音」と「しずけさ」から多様性や平和を考える
私たちが日々暮らす世界には、様々な音があふれています。鳥のさえずり、車の音、人々の話し声、風の音。そして、時には何も音がしない「しずけさ」も存在します。これらの音や静けさは、私たちの感情や行動に影響を与え、コミュニケーションや文化、さらには環境とも深く結びついています。
一見、個人的な感覚と思われがちな音や静けさへの感じ方も、実は非常に多様です。この多様性に目を向けることは、私たち自身の感覚への気づきを促し、他者の感じ方を理解する重要な手がかりとなります。本記事では、世界の音や静けさ、そしてそれらへの多様な感じ方を通して、子どもたちが多様性や平和について考えるための視点と、小学校の授業で活用できる具体的なアイデアを提供します。
世界に広がる音と静けさの多様性
世界の様々な場所では、その土地ならではの音環境があります。賑やかな都市の喧騒、自然豊かな森の静寂、あるいは活気あふれる市場の雑踏など、地域によって聞こえてくる音は大きく異なります。また、文化や生活習慣によって、特定の音(例:お祭りや儀式の音楽、時刻を知らせる鐘の音)に特別な意味が付与されたり、静けさに対する価値観が異なったりすることもあります。コミュニケーションにおいても、ある文化では沈黙は不快に感じられる一方、別の文化では沈黙が重要なメッセージを伝える手段であったり、尊重の表れであったりします。
さらに、音の感じ方は一人ひとりの身体や感覚の特性によっても異なります。同じ音を聞いても、ある人は心地よいと感じるかもしれませんが、別の人は不快に感じたり、逆に全く気にならなかったりします。感覚過敏や感覚鈍麻といった特性を持つ子どもにとっては、特定の音や音量が大きな困難となる場合もあります。このような音や静けさに関する多様性は、私たちの身近な生活の中に確かに存在しています。
子どもの視点から音と静けさを感じてみる
子どもたちは、大人以上に感覚が研ぎ澄まされている場合があります。日常の中で様々な音に自然と気づき、それに対して素直な感情を抱きます。大人が聞き流してしまうような小さな音に耳をすませたり、特定の音が苦手で思わず耳を塞いだりすることもあるでしょう。賑やかな場所が好きだったり、静かな場所でなければ落ち着かなかったりする子もいます。
友達との遊びの中で、声の大きさや出す音について意見が分かれたり、授業中の静かな環境づくりに難しさを感じたりすることもあります。「どうしてこの音を聞くとざわざわするんだろう?」「どうしてこの子はいつも大きな声を出すんだろう?」「どうしてみんなみたいに静かにできないんだろう?」といった疑問は、子どもたちが他者との違いや自分自身の感覚に気づく出発点となり得ます。これらの経験を通して、音や静けさへの感じ方は人それぞれ異なること、そしてその違いを理解し、受け入れることの大切さを学ぶことができます。
教育現場での活用アイデア
音や静けさという身近なテーマは、多様性や平和について考えるための導入として、小学校の授業で幅広く活用できます。道徳、総合的な学習の時間、特別活動などで、子どもたちの感覚や経験に基づいた学びを深めることが期待できます。
子どもたちへの問いかけ例
- 「みんなの周りには、どんな音が聞こえますか?目を閉じて耳をすませてみましょう。どんな音が聞こえてきましたか?」
- 「その音を聞いて、どんな気持ちになりますか?楽しい気持ち?不安な気持ち?それとも別の気持ち?」
- 「世界の他の国や場所では、どんな音がすると思いますか?想像してみましょう。日本と違う音はありますか?」
- 「静かな時間って、どんな時に必要だと感じますか?どうして静かだと良い時があるのでしょう?」
- 「もし、自分が心地よいと感じる音でも、近くにいる友達が嫌だと感じていたら、どうしたら良いでしょう?」
- 「お話しを聞く時に、静かに聞いていること(沈黙)が大切なのは、どんな時でしょう?それはどうしてですか?」
これらの問いかけは、子どもたちが自身の感覚や感情に気づき、他者の感覚や文化による違いに想像を巡らせ、他者への配慮やコミュニケーションにおける沈黙の役割について考えるきっかけとなるでしょう。
アクティビティ案
- 「わたしの音マップ」: 学校の教室や校庭など、身近な場所を歩きながら聞こえる音を記録し、地図上に書き込んでいきます。その音を聞いて自分がどう感じたかも一緒に記録することで、音環境への気づきと個人の感覚の多様性を探求できます。
- 「世界の音調べ」: 図書館やインターネットを使って、世界各地の音(例:アマゾンの熱帯雨林の音、インドのお祭りの音、モロッコの市場の音など)を調べ、発表し合います。音源を聞いてみることで、異文化や異なる自然環境への興味関心を深めます。
- 「サイレント・ウォーク(静寂散歩)」: 一定の時間、言葉を発さずに校内や校庭を歩き、普段は気に留めない小さな音や、静けさそのものを感じ取る体験をします。体験後、それぞれが気づいた音や静けさについて話し合うことで、感覚の鋭さや感じ方の違いを共有できます。
- 「心地よい音、苦手な音」: 絵や言葉を使って、自分が心地よいと感じる音や苦手な音を表現し、安全な形でクラスメイトと共有します。これにより、音への感じ方が人それぞれであることを知り、互いの感覚を尊重する気持ちを育みます。
- 「静けさの贈りもの」: 「誰かに静かな時間や空間をプレゼントするとしたら、どんなことができるだろう?」をテーマに、具体的なアイデアを考え、発表します。休み時間や授業中の工夫、特定の場所の使い方など、他者への配慮に基づいた実践的なアイデアを出すことで、共生意識を高めます。
これらの活動は、座学だけでなく、子どもたちの五感に訴えかけ、体験を通して学びを深めることに役立ちます。
まとめ
音や静けさは、私たちの身近にありながら、その多様性や奥深さに気づきにくいテーマかもしれません。しかし、世界の様々な音環境や文化による捉え方、そして一人ひとりの感覚の違いに目を向けることは、多様性を理解し、他者と共に心地よく生きるための大切な視点を与えてくれます。
子どもたちが、耳をすまし、感じたことを言葉にしたり表現したりする経験を通して、自身の感覚を知り、友達の感じ方にも耳を傾けること。そして、それぞれの感じ方を尊重し合うこと。この学びの積み重ねが、他者への配慮や、皆が安心して過ごせる平和な環境づくりにつながっていくことでしょう。日常の音や静けさの中に隠された多様性のヒントを、子どもたちと共に探してみてはいかがでしょうか。