音楽から広がる世界の多様性~リズムやメロディーから学ぶ共生~
はじめに
私たちの周りには、様々な音や音楽があふれています。子どもたちにとって、音楽は歌ったり踊ったりする楽しい遊びであると同時に、様々な感情や文化に触れる身近な入り口でもあります。世界に目を向けてみると、その音楽は地域や文化によって驚くほど多様です。
この記事では、「音楽」という切り口から世界の多様性を学び、それがどのように平和な社会の実現に繋がるのかについて考察します。子どもたちが音楽を通じて、自分たちの世界とは異なる文化に触れ、互いの違いを認め合い、言葉を超えて心を通わせる経験を育むためのヒントを提供いたします。小学校の授業で、多様性や平和について考える一助となれば幸いです。
世界の音楽と多様性
世界には、数え切れないほどの種類の音楽が存在します。アフリカの力強い打楽器のリズム、アジアの繊細な旋律を奏でる楽器、ヨーロッパの壮大なオーケストラ、ラテンアメリカの情熱的なダンス音楽など、その違いは多岐にわたります。
なぜ世界にはこれほど多様な音楽があるのでしょうか。それは、それぞれの地域や民族が持つ独自の歴史、文化、自然環境、生活様式などが音楽に反映されているからです。音楽は単なる音の羅列ではなく、そこに生きる人々の喜びや悲しみ、祈りや願い、自然への畏敬の念などが込められた表現なのです。使われる楽器も、その土地で採れる素材や受け継がれてきた技術によって様々です。
このような多様な音楽に触れることは、世界の文化を知ることに繋がります。そして、それぞれの音楽がその文化にとって大切な意味を持っていることを理解することは、多様な文化そのものを尊重することに繋がります。
子どもの視点から音楽の多様性を捉える
子どもたちは、普段、自分たちが慣れ親しんだ音楽(日本の童謡、アニメソング、J-POPなど)を聴いています。しかし、世界の様々な音楽に触れたとき、子どもたちはどのようなことを感じるでしょうか。
まず、おそらく「ちがい」に気づくでしょう。知っている音楽とは違うリズム、違う音色、違う歌い方。その違いに戸惑うかもしれませんし、面白さを感じるかもしれません。しかし、同時に「おもしろい」「たのしい」「ちょっとこわい」といった、言葉が分からなくても感じ取れる感情があることにも気づくでしょう。リズムに合わせて体を動かしたくなる、メロディーを口ずさみたくなる、といった感覚は、文化や言語を超えた共通のものです。
このように、音楽は「ちがい」があることを肌で感じさせてくれます。同時に、「感じる心」や「楽しむ心」は共通していることを教えてくれます。友達と好きな音楽が違っても、一緒に歌ったり演奏したりして楽しめるように、世界中の人々も音楽を通じて心を通わせることができるのです。多様性を認め、共に楽しむという経験を、音楽は子どもたちに直感的に伝えてくれます。
教育現場での活用アイデア
小学校の授業で、世界の音楽から多様性や共生、平和について考えるための具体的なアイデアを提案します。
- 多様な世界の音楽に触れる:
- まず、子どもたちに自分の好きな音楽について話してもらうことから始めます。その後、「世界にはみんなの好きな音楽とは違う、色々な音楽があるんだよ」と提示し、様々な国の音楽(YouTubeなどの音源を利用)を実際に聴かせてみましょう。
- 聴いた音楽について、子どもたちに感じたことや気づいたことを自由に発表してもらいます。「どんな気持ちになった?」「どんな場所で歌われているのかな?」「どんな楽器の音が聞こえる?」といった問いかけを投げかけます。
- 「ちがい」と「おもしろさ」を探る:
- 複数の国の音楽を聴き比べ、リズム、メロディー、使われている楽器、歌い方などの「ちがい」に焦点を当てて話し合います。なぜ違うのか、その背景にある文化や生活に想像を広げます。
- 同時に、その「ちがい」が「おかしい」のではなく、「おもしろい」「すごい」といった多様性の肯定的な側面に気づかせます。自分たちの音楽とは違うからこそ新鮮で面白い、という感覚を大切にします。
- 共通する「心」や「楽しさ」を見つける:
- 言葉は分からなくても、音楽から感じ取れる感情(嬉しい、悲しい、力強いなど)や、思わず体を動かしたくなるリズムなど、文化を超えた共通点について話し合います。「この音楽はどんな気持ちになる?」「みんなの知っている歌で、この音楽と同じように力が出る歌はあるかな?」などと問いかけます。
- 音楽に合わせて体を動かす、簡単な楽器(手拍子、足踏み、カスタネットなど)でリズムを真似するなど、体験を通して「楽しい」という共通の感情を共有する活動を行います。
- 問いかけ例:
- 「みんなが知っている歌と、今聴いた世界の音楽で、違うところはどこかな?」
- 「似ているところもあるかな? どんなところが似ている?」
- 「この音楽を聴いている人たちは、どんな時にこの音楽を歌ったり演奏したりするのかな?」
- 「この音楽から、その国のこと、その国に住んでいる人のこと、どんなことが想像できるかな?」
- 「もし君たちがこの音楽に合わせて踊るなら、どんな風に踊る?」
- 「もし言葉が通じない外国の人と友達になったら、どんな風に音楽で心を通わせられると思う?」
- 「世界中の人たちが、それぞれの好きな音楽を大切にしながら、仲良く暮らすにはどうしたら良いかな?」
- アクティビティ案:
- 「世界の楽器探検」: 世界の珍しい楽器について調べ、発表する活動。音が鳴る仕組みや、どんな音楽で使われるのかなどを学ぶ。身近な素材で簡単な楽器を作ってみる。
- 「感じた音を絵にしよう」: 世界の音楽を聴きながら、心に浮かんだイメージや色を自由に絵に描く活動。絵を見せ合い、音楽から感じた多様なイメージを共有する。
- 「平和のリズムを刻もう」: 様々な国のリズムを体験したり、自分たちで平和をテーマにしたリズムを創作したりする活動。全員で協力して一つのリズムを完成させることで、共生の大切さを体感する。
まとめ
音楽の多様性を学ぶことは、世界の文化の多様性を知り、それぞれの文化が持つ価値を認めることにつながります。そして、言葉や文化の壁を越えて人々の心を繋ぐ音楽の力を体験することは、互いの違いを認め合い、共に生きる「共生」の精神を育む上で非常に有効です。
子どもたちが、世界の様々な音楽に「おもしろいな」「なんか楽しいな」と感じる経験は、多様な他者への肯定的な関心を育む第一歩となります。音楽を通じて感じた「ちがい」と「共通点」への気づきは、やがて世界の多様な人々との共生、そして平和な社会の実現へと繋がっていく大切な学びとなるでしょう。ぜひ、教室に世界の音楽を取り入れ、子どもたちの心に多様性への扉を開いてみてください。