世界の遊びから学ぶ多様性~「楽しい!」の共有が育む共生意識~
世界の遊びは「楽しい!」がいっぱい
子どもにとって「遊び」は、言葉や文化の壁を越えて、誰もが「楽しい!」という気持ちを共有できる普遍的な活動です。しかし、世界には実に様々な遊びがあり、それぞれの地域や文化の特色が反映されています。縄跳びや鬼ごっこのような共通性の高い遊びもあれば、その土地ならではの道具やルールを用いたユニークな遊びも存在します。この記事では、世界の遊びを通して、子どもたちが多様性や異文化理解、そして共に生きることの意味を自然に学ぶためのヒントを探ります。子どもたちの身近な「遊び」という切り口から、世界の広がりと多様な人々の営みに触れることで、平和や共生への意識を育む一助となることを目指します。
遊びにみる文化と多様性
世界には、その気候、地形、歴史、社会の仕組みなどが反映された多様な遊びが存在します。例えば、広大な自然の中で生まれた身体を使った遊び、都市部で工夫された狭い空間での遊び、世代を超えて受け継がれる伝統的な遊び、共同体の中で協調性を育む遊びなど、様々です。
いくつかの例を挙げてみましょう。
- ケニアのマサイ族の「アドラナ(Adarrana)」: 高く跳ぶことを競う踊りのような遊びです。これはマサイ族の戦士としての身体能力を培う伝統と関連しており、遊びの中に文化的な背景が色濃く反映されています。
- 韓国の「コンギ(공기)」: 日本のお手玉に似ていますが、石やプラスチックの玉を使い、手で投げ上げてキャッチする遊びです。石を拾うルールやレベルがあり、集中力や器用さが養われます。かつては女の子の遊びとされていましたが、今は性別に関係なく楽しまれています。
- ブラジルの「ペーチカ(Petiça)」: 数人で輪になり、小さなボールを足や頭で地面に落とさないようにパスし合う遊びです。サッカーの国ならではの、リフティングのような技術を使い、協力して続けることが重要になります。
これらの遊び一つひとつに、人々の暮らしや価値観が込められています。ルールや道具、遊び方が違うことを知ることは、単なる知識としてだけでなく、「自分たちの当たり前が、他の場所では違うのかもしれない」という多様な世界への扉を開くことにつながります。
子どもの視点から見る「ちがい」と「たのしさ」
子どもたちは遊びを通して、違いを身体で感じ取ります。ルールが違うことへの戸惑い、今まで知らなかった道具への新鮮な驚き、言葉が通じなくてもジェスチャーで遊び方を理解しようとする工夫。これらはすべて、多様性を体験する貴重な機会です。
ある遊びのルールが自分にとって理解しにくかったり、難しく感じたりすることもあるでしょう。しかし、そこで他の子どもがどのように遊んでいるかを見たり、教えてもらったりする中で、異なるやり方を受け入れたり、一緒に楽しめる方法を見つけたりすることを学びます。「勝ち負け」だけでなく、ルールを守ること、友達と協力すること、創意工夫すること、そして何よりも「楽しい」という感情を共有すること。これらの経験は、単なる遊びの技術習得にとどまらず、他者と関わる上での大切な姿勢や共生のために必要な心構えを育みます。
言葉が完全に理解できなくても、笑顔やジェスチャーで遊びの輪に入れることも、子どもたちは遊びから学びます。遊びは、論理や理屈を超えた、感覚的な共感を生み出す力を持っています。この「楽しい」という感情の共有こそが、異なる背景を持つ人々を結びつける根源的な力となり得ることを、子どもたちは遊びながら無意識のうちに感じ取っているのです。
教育現場での活用アイデア
世界の遊びをテーマに、多様性や平和について学ぶ授業は、子どもたちの興味を引きつけ、主体的な学びを促すでしょう。以下にいくつかの活用アイデアと問いかけ例を提案します。
導入・世界の遊びを知る
- アクティビティ案:
- 世界地図を用意し、紹介する遊びが行われている国に印をつける。
- 世界の様々な遊びの動画や写真を見せる。
- 簡単な世界の遊びを実際に体験してみる(例: コンギ、ペーチカなど、身近なもので代替できるもの)。
- 問いかけ例:
- 「今見た世界の遊びの中で、一番やってみたいものは何かな? どうしてそう思うの?」
- 「日本の遊びと比べて、どんなところが違うかな?」
- 「道具や場所が違うと、遊び方はどう変わると思う?」
遊びの背景を探る・多様性を考える
- アクティビティ案:
- 紹介した遊びが、どのような場所で、どのような人々の間で生まれたのかを調べる(調べ学習)。
- 遊びに使われる道具について、その国の暮らしや自然と関連付けて考える。
- 遊びのルールに込められた願いや文化的な意味について話し合う。
- 問いかけ例:
- 「この遊びは、どうしてこの国で生まれたのかな? そこでの暮らしと関係があるかな?」
- 「この遊びのルールは、どんなことを大切にしていると思う?」
- 「みんながいつもしている遊びには、どんな『当たり前』のルールがあるかな?」
- 「ルールが違うことについて、どう感じますか? 困ることはあるかな?」
遊びを通して共生を考える
- アクティビティ案:
- いくつかのグループに分かれ、異なるルールの遊びを混ぜて遊んでみる(ルールの調整やコミュニケーションが必要になる状況を設定)。
- 「みんなで楽しく遊ぶために大切なこと」についてディスカッションする。
- 自分たちのオリジナルで「多様な人が一緒に楽しめる遊び」を考えてみる。
- 問いかけ例:
- 「もし違う遊び方を知っている友達が来たら、どうやって一緒に遊ぶ?」
- 「ルールが違うとき、どうすればみんなが納得して楽しく遊べるだろう?」
- 「言葉が通じなくても、遊びを通して仲良くなるにはどうしたら良いかな?」
- 「遊びの中で、みんなが気持ちよく過ごすために、どんなことに気をつけたら良いと思う?」
これらの問いかけや活動を通して、子どもたちは異なるものを知り、受け入れ、共に楽しむためのコミュニケーションや協調性の重要性を実践的に学ぶことができます。
まとめ
世界の遊びは、子どもたちにとって、世界の多様性を楽しく学ぶための入り口となります。一つひとつの遊びに込められた文化や人々の営みに触れることは、自分たちの知っている世界以外の「あたりまえ」があることを知る機会です。そして、ルールや方法が違うことへの気づきは、違いを認め、尊重する心へと繋がります。
遊びを通して「楽しい!」という感情を共有する経験は、言葉や文化の壁を越えた共感を生み出し、共に生きる喜びを教えてくれます。このような経験の積み重ねこそが、将来、子どもたちが多様な人々との関わりの中で、互いを理解し、協力し合い、より良い社会を築いていくための大切な基盤となるでしょう。世界の遊びから広がる学びが、子どもたちの心の中に多様な世界への好奇心と平和を願う優しい気持ちを育むことを願っています。