体の多様性ってなんだろう?~一人ひとりの体から学ぶ尊重と共生~
体の多様性について考え、お互いを認め合う力を育む
子どもたちが日常生活を送る中で、自分自身や友達の体について考える機会は少なくありません。「〇〇くんは足が速い」「△△さんは絵を描くのが得意な指の動きをしている」「□□さんは目が悪くて眼鏡をかけている」「給食に食べられないものがある子がいた」など、様々な「体の違い」を目にしたり耳にしたりします。これらの身近な違いに目を向けることは、多様性や、お互いを尊重し共に生きる社会について学ぶ重要な入り口となります。
この記事では、「体の多様性」というテーマを取り上げ、それが子どもたちの世界にどう関わるのか、そしてこのテーマを小学校の授業でどのように扱い、子どもたちの多様性への理解を深めることができるのかを探ります。読者である小学校教諭の皆様が、子どもたちと共に体の多様性について考え、学び合うためのヒントとしてご活用いただければ幸いです。
体の多様性とは何か
「体の多様性」と聞くと、まず障害や病気など、医学的な観点からの違いを思い浮かべるかもしれません。しかし、ここでいう体の多様性は、もっと広義の意味を含みます。例えば、背の高さ、体格、肌の色、髪の毛の質といった見た目の違いはもちろん、運動能力、視力、聴力、アレルギーの有無、暑さ寒さへの耐性、あるいは特定の動作の得意・不得意といった、体の機能や感覚の違いも含まれます。
これらの違いは、一人ひとりが持つ個性の一部であり、その人の経験や感じ方、世界との関わり方に影響を与えます。目が不自由な人は音や触覚から多くの情報を得ているかもしれません。特定の食べ物アレルギーがある人は、食の安全についてより深く考えているかもしれません。運動が苦手な人は、体を動かすこと以外の別の能力を伸ばしているかもしれません。体の多様性は、単に体の状態が違うということではなく、それによって生まれる多様な生き方や感じ方、考え方につながるものなのです。
「子どもの視点から」体の多様性を考える
子どもたちは、良くも悪くも「自分と違うもの」に純粋な関心を向けます。友達の体の違いについて、素朴な疑問を持ったり、「なんでだろう?」と考えたりします。一方で、見た目や能力の違いに対して、からかいや exclusion(排除)といったネガティブな感情や行動につながってしまうこともあります。また、自分自身の体についても、「友達みたいに速く走れない」「発表する時に声が震えてしまう」など、悩みやコンプレックスを抱くことがあります。
「体の多様性」を子どもたちと考える際には、大人のような複雑な社会構造や権利の問題だけでなく、子どもが日常で感じている「自分と友達との違い」、それに対する「 curious(好奇心)」や「 uneasy(不安)」といった、より根源的な感情に寄り添うことが大切です。なぜ自分と友達の体は違うのだろう? 体が違うと、どんな風に世界が見えたり感じたりするのだろう? 困っている人がいたら、どんな気持ちになるだろう? 助けたいと思う気持ちはどこから来るのだろう? このような問いを通じて、子どもたちが自分自身の体を受け入れ、友達の体を理解し、違いを認め合うことの第一歩を踏み出せるように促します。
教育現場での活用アイデア
小学校の授業で「体の多様性」を扱うことは、子どもたちが他者理解を深め、共生社会の基礎を学ぶ上で非常に有効です。道徳科、総合的な学習の時間、特別活動などで取り入れることができます。
問いかけの例
子どもたちの思考や議論を深めるために、以下のようなオープンクエスチョンを投げかけることが考えられます。
- 「みんなの体で、『他の人とは違うかもしれないな』と思うところはありますか? それはどんなところですか?」
- 「友達や家族の体で、『すごいな』とか『面白そうだな』と感じる部分はありますか? それはどんなところですか?」
- 「もし、目が悪くなったら、どんなことに困ると思いますか? 困っている人がいたら、どんな工夫ができるかな?」
- 「耳が聞こえない人と話すには、どんな方法があると思いますか? 実際にやってみたことはありますか?」
- 「体のことで、誰かが困っている場面に出会ったら、どんな気持ちになりますか? どんなことができるかな?」
- 「体の違いがあるからこそ、他の人にはできない経験をしたり、気づけないことに気づいたりすることはあると思いますか?」
- 「みんなが体の違いを認め合って、お互いを大切にできるクラスや学校にするためには、どんなことができるかな?」
アクティビティの例
具体的な活動を通して、子どもたちが体験的に学ぶ機会を設けることができます。
- 「わたしの体、友達の体」
- ワークシートを用意し、自分の体の「好きなところ」「苦手なところ」「面白いところ」などを絵や言葉で書いてみる。
- 友達の体の良いところや、自分がすごいなと思うところを付箋に書いてメッセージ交換する。(例:「〇〇くんの、鉄棒ができる腕の力がすごいね!」「△△さんの、小さな音にも気づける耳がいいな!」)
- 体験シミュレーション
- アイマスクをして視覚以外の感覚を使ってみる。(安全に配慮し、補助者を必ずつける)
- 耳栓をして音が聞こえにくい状況を体験してみる。
- 利き手ではない手で絵をかいてみる。
- これらの体験を通じて、普段使っている機能がいかに大切か、また特定の機能が制限されることで何を感じるかについて話し合う。
- 物語や絵本の活用
- 体の違いや障害を持つ主人公が登場する絵本や物語を読む。読み聞かせの後、登場人物の気持ちや、自分だったらどうするかについて話し合う。
- 「バリアフリーを探そう」マップ作り
- 学校の中を歩き、体の使い方に工夫が必要な人が通りやすい場所(スロープ、手すり、広いトイレなど)や、困りそうな場所を探して地図に書き込む。
- 「工夫いろいろ発表会」
- 体の違いを持つ人々が、どのように生活を工夫しているかを調べ(眼鏡、補聴器、義足、点字ブロック、車椅子など)、発表する。
これらの活動は、子どもたちが体の多様性を自分事として捉え、具体的なイメージを持つ手助けとなるでしょう。
まとめ
私たち一人ひとりの体には、様々な違いがあります。その違いは、単なる個性の違いであると同時に、その人が世界をどのように見て、どのように感じ、どのように生きているかということにも深く関わっています。体の多様性を認め合うことは、お互いの違いを認め、尊重し、そして困っている人がいれば助け合い、誰もが自分らしく安心して生きられる社会を築くための大切な一歩です。
子どもたちが自分自身の体を肯定的に捉え、友達の体の違いに関心を持ち、理解しようと努める姿勢を育むことは、多様性を受け入れ、平和な社会を築く上で非常に重要です。この記事でご紹介した問いかけやアクティビティが、子どもたちの心に「体の多様性って面白いな」「みんなちがうから素敵なんだな」「助け合うっていいな」といった温かい種をまく一助となれば幸いです。子どもたちと共に、豊かな多様性を持つ体について学びを深めていきましょう。