子どもたちと考える「いろいろな気持ち」~感情の多様性から学ぶ共感~
子どもたちと考える「いろいろな気持ち」~感情の多様性から学ぶ共感~
わたしたちは、日々様々な「気持ち」を感じながら生きています。嬉しい、悲しい、怒っている、楽しい、不安、恥ずかしい、わくわくする...。これらの感情は、わたしたちの心の中で生まれ、行動や人との関わりに影響を与えます。そして、同じ出来事に出会っても、人によって感じる気持ちは全く違うこともあります。
この「気持ち」の多様性を理解することは、自分自身をより深く知るためだけでなく、周りの人々との関係性を豊かにし、多様な他者と共に生きていく上で非常に大切です。本記事では、この感情の多様性というテーマが、どのように子どもたちの多様性や平和への理解を深める学びにつながるのか、そして小学校の授業でどのように扱えるのかについて考えます。
感情の多様性とその重要性
感情は、その瞬間の自分自身の状態を示す大切なサインです。そして、わたしたち一人ひとりが異なる経験や価値観を持っているように、感情の感じ方、表し方、そして特定の出来事に対する感情的な反応も多様です。
例えば、運動会で徒競走の順位が決まった時、1位になった子は「嬉しい」「達成感」、惜しくも2位になった子は「悔しい」「次は頑張りたい」、ビリになってしまった子は「悲しい」「恥ずかしい」と感じるかもしれません。また、順位に関係なく「みんなと一緒に走れて楽しかった」と感じる子もいるでしょう。このように、同じ状況でも人によって様々な感情が生まれます。
さらに、文化や育った環境によって、感情の表し方が異なる場合もあります。大声で喜びを表現することが自然な文化もあれば、静かに微笑んで喜びを伝える文化もあります。悲しみや怒りといった感情についても同様です。
このような感情の多様性を知ることは、他者を理解し、共感するための第一歩となります。自分のものとは違う感情を持つ人がいることを知り、その感情の背景に思いを馳せることで、人との違いを受け入れ、尊重する姿勢が育まれます。これは、身近な友達との関係性だけでなく、世界の多様な人々と平和に共生していくための基礎となる力と言えるでしょう。
子どもの視点から見る「いろいろな気持ち」
子どもたちの世界でも、「気持ち」は非常に大きな意味を持っています。友達との遊びの中で、自分の思い通りにならない時に「怒る」、大切なものをなくして「悲しむ」、頑張ったことを褒められて「嬉しい」など、感情は日常のあらゆる瞬間に現れます。
子どもたちは、まだ自分の感情を正確に言葉にするのが難しかったり、感情をうまくコントロールできなかったりすることもあります。友達が泣いている理由が分からず戸惑ったり、自分が感じていることと友達が感じていることが違うことに気づいて不思議に思ったりするかもしれません。
「子どもの視点から」このテーマを深掘りする時、大切なのは、感情そのものの良し悪しを判断するのではなく、「どんな気持ちも大切な自分の気持ちであること」「自分と違う気持ちを持つ友達がいること」を受け止める力を育むことです。
例えば、「どうしてあの時、〇〇さんはあんなに怒っていたのかな?」「同じ絵を見ても、なんで△△さんは楽しい気持ちになるのに、自分は少し寂しい気持ちになるんだろう?」といった素朴な疑問は、感情の多様性への入り口となります。自分の内面で湧き上がる感情、そして他者の感情に関心を向けることは、子どもたちが自分自身と他者という存在を理解するための重要なプロセスです。
教育現場での活用アイデア
小学校の授業で感情の多様性や共感を扱うことは、道徳教育における「友情」「相互理解」「共感」「よりよい集団生活」といった主題や、総合的な学習の時間におけるコミュニケーション能力の育成、特別活動での人間関係づくりに繋がります。以下に具体的な活用アイデアをいくつか提案します。
- 導入の問いかけ例:
- 「今日、一番嬉しかった気持ちは何かな?どんな時だった?」
- 「友達が困っている時、どんな気持ちになる?」
- 「絵本の登場人物は、どんな気持ちだと思う?そう思ったのはなぜ?」
- 「みんなで同じ映画を見ても、泣いている人もいれば、笑っている人もいるのはなぜだろう?」
- 活動案:感情カードと話し合い:
- 様々な感情を表す顔の絵や言葉が書かれたカード(「嬉しい」「悲しい」「怒り」「困った」「びっくり」など)を用意します。
- 「こんな気持ちになった時がある人?」と問いかけ、どんな時にその気持ちになったかを簡単に話してもらいます。(話したくない子は聞くだけでも良い)
- 特定の状況(例:「休み時間にボールを貸してもらえなかった時」「テストで良い点が取れた時」「飼っていたペットが病気になった時」)を設定し、その時どんな気持ちになるかをカードで示したり、言葉で発表したりしてもらいます。同じ状況でも違う感情のカードを選ぶ子がきっといるはずです。
- 「どうして〇〇さんは悲しい気持ちになったのかな?」「△△さんが楽しい気持ちになったのは、どんな理由からだろう?」と、異なる感情が生まれる背景について、否定せずに問いかけ、話し合う時間を作ります。
- 活動案:気持ちの見える化ワークシート:
- ワークシートの中心に自分の顔を描き、その周りにその日感じた様々な気持ちを色や形で表現してもらいます。
- 「今日の私の気持ちの天気予報」のように、気持ちを天気で表現するワークシートも有効です。(晴れ:嬉しい、雨:悲しい、雷雨:怒り、曇り:不安など)
- 自分の気持ちを内省し、表現する練習になります。
- 活動案:共感ロールプレイング:
- 簡単なトラブルや日常の出来事(例:友達の作品をうっかり壊してしまった、順番を守らなかった、忘れ物をして困っている友達がいる)を想定します。
- 何人かの子にそれぞれの登場人物になりきってもらい、その時の気持ちを想像して表現してもらいます。
- 周りの子は、それぞれの登場人物がどんな気持ちだったかを想像し、話し合います。「もし自分が〇〇さんだったら、どんな気持ちになるかな?」と問いかけ、相手の立場に立つ練習をします。
- 物語の活用:
- 登場人物の気持ちが豊かに描かれている絵本や物語(例:いじめや差別に直面する物語、異なる文化や考え方を持つ人々が登場する物語)を読み聞かせ、登場人物の感情に焦点を当てて話し合います。
- 「もしあなたが主人公だったら、どんな気持ちになる?」「その時、周りの人はどんな気持ちだったと思う?」などと問いかけます。
これらの活動を通じて、子どもたちは自分の内面にある感情に気づき、それを表現する語彙を増やし、自分とは違う他者の感情にも目を向けることができるようになります。そして、多様な感情があることを知り、それらを認め合うことが、共感や相互理解へと繋がっていくでしょう。
まとめ
「気持ち」という、誰しもが経験する身近なテーマから入ることで、子どもたちは無理なく多様性や他者理解について考えることができます。自分の感情に正直に向き合い、他者の感情に想像力を働かせることは、共感する力を育み、対立を乗り越え、互いを尊重し合う平和な関係性を築く上での重要な土台となります。
小学校の先生方には、ぜひ日々の教育活動の中で、子どもたちの「いろいろな気持ち」に寄り添い、それらを安心して表現できる温かい環境を作りながら、感情の多様性という学びを深めていっていただければ幸いです。この学びが、子どもたちが将来、多様な人々と共に生きる社会の中で、他者を思いやり、平和を大切にする心豊かな大人へと成長していく一助となることを願っています。