ジェスチャーや表情から広がる世界の多様性~言葉がなくても伝わること、伝わらないこと~
ジェスチャーや表情から世界の多様性を学ぶ
私たちは日々の生活の中で、言葉を使ってコミュニケーションをとっています。しかし、言葉以外にも、相手に何かを伝えたり、相手の気持ちを受け取ったりする方法がたくさんあります。その一つが、ジェスチャーや表情といった「非言語コミュニケーション」です。
世界には様々な言葉があるように、ジェスチャーや表情の表現方法、そしてその意味も多様です。この多様性を知ることは、異なる文化を持つ人々と心を通わせ、共に生きる上で非常に大切な学びとなります。この記事では、ジェスチャーや表情から広がる世界の多様性に焦点を当て、小学校の子どもたちが非言語コミュニケーションを通じて多様性や共生について考えるための視点や、教育現場での活用アイデアをご紹介します。
非言語コミュニケーションに込められたメッセージ
非言語コミュニケーションとは、言葉そのものを用いずに行われるコミュニケーション全般を指します。体の動き(ジェスチャー)、顔の表情、視線、声のトーン、身体的な距離などがこれにあたります。
例えば、日本では「OK」を示す時に人差し指と親指で輪を作ることが一般的ですが、同じジェスチャーでも、国によっては「お金」を意味したり、あるいは侮辱的な意味を持つ場合もあります。また、親指を立てる「サムズアップ」は、日本では褒める時や賛成を示す時に使われますが、中東の一部ではこれも侮辱的な意味になることがあります。このように、一つのジェスチャーが文化によって全く異なる意味を持つことは珍しくありません。
表情についても、喜びや悲しみといった基本的な感情を示す顔つきは多くの文化で共通性が見られると言われます。しかし、感情を表に出すことが良いとされる文化と、控えめにする方が良いとされる文化があったり、特定の状況でどのような表情をするのが適切かという社会的ルールは文化によって異なります。
これらの非言語サインは、言葉だけでは伝えきれないニュアンスや感情、時には話し手の本音を表すこともあります。そして、文化や背景が違えば、そのサインの送り方や受け止め方も変わってくるのです。このような非言語コミュニケーションの多様性を知ることは、異文化理解の第一歩となります。
子どもの視点から非言語コミュニケーションを考える
子どもたちは、まだ言葉を十分に使いこなせない幼い頃から、泣いたり笑ったり、指差しをしたりといった非言語的な方法で周囲と関わっています。成長しても、友達との遊びの中で、言葉を交わさなくても表情やジェスチャーで気持ちを伝え合ったり、相手の様子を察したりすることがよくあります。
子どもたちが非言語コミュニケーションの多様性に触れる時、どのようなことを感じ、考えるでしょうか。例えば、海外のアニメーションや絵本を見た時に、登場人物の普段見慣れないジェスチャーに気づくかもしれません。「どうしてこの動きをするのかな?」「どんな気持ちなのかな?」と疑問を持つことがあるでしょう。
また、言葉が通じない外国の人と出会った時に、ジェスチャーや表情で懸命にコミュニケーションをとろうとした経験から、「言葉が分からなくても、伝えようとすれば伝わることもあるんだ」「でも、うまくいかない時もあるな」と感じることがあるかもしれません。それは、非言語コミュニケーションが持つ「言葉を超えた繋がり」の可能性と同時に、「文化の違いによる誤解」のリスクを肌で感じる経験となるでしょう。
友達同士の関わりにおいても、相手の「大丈夫だよ」という言葉と、少し沈んだ表情や元気のない様子が一致しない時に、「本当はどうなのかな?」と相手の気持ちを推し量ろうとすることがあります。これは、非言語コミュニケーションが言葉以上に本音を表すことがある、という直感を子どもなりに掴んでいる瞬間と言えます。
このような、子どもたちが日々の生活の中で自然に触れている非言語的なやり取りや、異文化との接触を通じて生まれる素朴な疑問や気づきこそが、多様性への理解を深める大切な入り口となります。
教育現場での活用アイデア
非言語コミュニケーションの多様性は、小学校の授業で子どもたちが世界の多様性や共生について学ぶ上で、非常に身近で分かりやすいテーマとなり得ます。以下にいくつかの活用アイデアを提案します。
1. ジェスチャー当てクイズ・紹介
- 内容: 日本でよく使われるジェスチャー(例: お腹すいた、考えている、内緒など)をクイズ形式で出題し、子どもたちに当ててもらう。次に、世界の特定の国で使われるジェスチャーを紹介し、その意味や日本のジェスチャーとの違いを伝える。
- 問いかけ例:
- 「このジェスチャー、知ってるかな?どんな意味だと思う?」
- 「みんなが『OK』ってする時はどんな形かな?世界の他の国では、違う形や違う意味があることもあるんだって。どうして違うのかな?」
- 「もし外国の人が、知っているジェスチャーと違う動きをしていたら、どうすればいいかな?」
2. 表情で伝える気持ちゲーム
- 内容: 喜び、悲しみ、怒り、困惑など、様々な気持ちが書かれたカードを用意する。子どもたちにカードを引いてもらい、言葉を使わずに表情だけでその気持ちを表現してもらう。他の子どもたちはそれを見て、どんな気持ちかを当てる。
- 問いかけ例:
- 「〇〇さんの今の顔、どんな気持ちに見えるかな?」
- 「同じ『嬉しい』気持ちでも、人によって顔つきは同じかな?どこが違うかな?」
- 「言葉で言わなくても、顔を見れば気持ちが分かる時と、分からない時があるのはどうしてだろう?」
3. 物語の中の非言語サインを探る
- 内容: 世界の文化を扱った絵本や、様々な登場人物が出てくる物語を読み聞かせ、登場人物のジェスチャーや表情に注目する。その非言語サインが、物語の中でどのような役割を果たしているか、登場人物の気持ちをどう表しているかを話し合う。
- 問いかけ例:
- 「この絵の〇〇さんは、どんな顔をしている?どんな気持ちだと思う?」
- 「この時、言葉では『大丈夫』って言っているけど、顔は少し曇っているね。どうしてだと思う?本当はどんな気持ちかな?」
- 「この国の人は、驚いた時にこんなジェスチャーをするんだって。みんなが驚いた時はどうする?同じかな、違うかな?」
4. 非言語コミュニケーションの難しさと工夫を考えるワーク
- 内容: 言葉が全く通じない状況を想定した簡単なロールプレイングや、異文化でのジェスチャーの誤解に関する短いエピソードを紹介し、非言語コミュニケーションの難しさと、それを乗り越えるための工夫(ゆっくり、大きく動く、絵を描く、相手の反応をよく見るなど)について話し合う。
- 問いかけ例:
- 「もし言葉が全く通じない外国の人に道を尋ねられたら、どうやって教えてあげる?」
- 「ジェスチャーや顔つきだけで伝えようとすると、どんな難しいことがあるかな?」
- 「相手と分かり合うために、どんな工夫ができると思う?」
これらの活動を通じて、子どもたちは非言語コミュニケーションが持つ力と難しさを学び、異なる表現方法が存在すること、そして相手を理解しようと努力することの大切さを実感できるでしょう。
違いを知り、心を通わせるために
ジェスチャーや表情といった非言語コミュニケーションの多様性を学ぶことは、世界の多様性を身近に感じる素晴らしい機会となります。それは単に「こんな面白いジェスチャーがあるんだ」という知識に留まらず、「私たちが当たり前だと思っている表現が、他の場所ではそうではないかもしれない」「言葉が違っても、ジェスチャーや表情で助け合えることもある」という気づきに繋がります。
このような気づきは、子どもたちが異なる文化や背景を持つ人々と関わる上で、相手の立場に立って考え、誤解を恐れずにコミュニケーションをとろうとする姿勢を育むことでしょう。そして、違いを認め、尊重し合いながら心を通わせようとすることこそが、多様な人々が共に平和に暮らしていくための大切な一歩となるのです。子どもたちが非言語のサインに意識を向け、世界中の人々と心を通わせる豊かな経験を積んでいくことを願っています。