世界には色々な「あいさつ」があるよ~言葉の多様性から広がる世界~
身近な「あいさつ」から始まる世界の多様性
日々の生活の中で、私たちは当たり前のように「おはよう」「こんにちは」「こんばんは」といったあいさつを交わしています。これは、人と人が気持ちを通わせ、関係を築くための大切な始まりです。しかし、世界に目を向けると、あいさつは「こんにちは」だけではありません。様々な言葉や方法で、人々は互いに敬意や親愛の気持ちを伝えています。
この記事では、この身近な行為である「あいさつ」を入り口として、言葉の多様性、そしてそれが文化や人々の生き方とどう繋がっているのかを考えます。そして、子どもたちがこの多様性を理解し、互いを尊重し合う心を育むために、小学校の授業でどのように活用できるか、具体的なアイデアをご紹介します。
言葉の多様性と「あいさつ」に込められたメッセージ
世界には、およそ7000もの言語があると言われています。それぞれの言語には、その言語を使う人々の歴史や文化、考え方が反映されています。あいさつもまた、単なる習慣ではなく、その社会の価値観や人間関係のあり方を映し出す鏡のようなものです。
例えば、日本語の「いただきます」「ごちそうさま」は、食事に対する感謝や、関わった全ての人や命への敬意を示す言葉です。タイの「ワイ」のように合掌するあいさつは、仏教の教えや目上の人への敬意を表す文化と深く結びついています。マサイ族のあいさつでは、相手の安全を尋ねる言葉に続けて、唾を吐くジェスチャーをすることがあり、これは祝福や尊敬の念を示します(近年は変化している場合もあります)。こうした一つ一つのあいさつには、その文化圏で大切にされているものが込められています。
また、同じ言葉でも、話し方や声のトーン、表情、身振り手振りによって伝わる印象が変わることも、言葉の多様性の一つです。言語そのものの違いだけでなく、非言語コミュニケーションを含めた広い意味での「言葉」には、実に豊かな表現方法が存在しているのです。
子どもたちの目に映る言葉の多様性
子どもたちは、新しい言葉や異なる文化に触れると、しばしば強い関心や純粋な驚きを示します。「えっ、そんな言い方するの?」「面白いね!」といった反応は、多様性を受け入れるための最初のステップと言えるでしょう。
世界の様々なあいさつを知ることは、子どもたちにとって、自分たちの当たり前が世界共通ではないことを知る機会となります。「なぜ違うの?」という素朴な疑問は、異文化への扉を開きます。言葉が通じない相手にどう気持ちを伝えるか、という課題に直面することは、非言語コミュニケーションの重要性に気づかせたり、相手を理解しようとする工夫を促したりします。
また、友達同士や家族とのやり取りの中で、同じ日本語を使っていても、言葉の選び方や伝え方によって相手の感じ方が違うことに気づく経験も、言葉の多様性やコミュニケーションの奥深さを学ぶ機会となります。多様な「言葉」に触れることは、子どもたちの世界観を広げ、異なる背景を持つ人々への関心や共感を育む基盤となるのです。
教育現場での活用アイデア
言葉の多様性、特に世界中のあいさつは、小学校の授業で多様性や異文化理解を扱う際に、非常に導入しやすいテーマです。以下にいくつかの活用アイデアを提案します。
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世界のあいさつを体験する:
- 世界地図や地球儀を見ながら、様々な国の位置と、その国のあいさつ(言葉と簡単な身振り)を紹介します。
- 子どもたちに実際に声に出して言ってもらったり、身振りを真似してもらったりします。フランス語の「Bonjour」、中国語の「你好(ニーハオ)」、スワヒリ語の「Jambo(ジャンボ)」など、発音の楽しさを伝えます。
- 「あいさつリレー」のように、順番に違う国のあいさつをしながら友達と交流する活動も考えられます。
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あいさつに込められた意味を調べる:
- いくつかの国のあいさつを取り上げ、なぜそのような言い方や身振りをするのか、その背景にある文化や歴史を調べ、発表する活動を取り入れます。食文化や宗教、気候など、他の多様性とも関連付けて考えると理解が深まります。
- 日本のあいさつ(例: 「いただきます」「行ってきます」「ただいま」)に込められた意味についても改めて考えさせます。
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言葉が通じない状況を考える:
- 「もし、外国から来た言葉の分からない友達が転校してきたら、どうやって仲良くなる?」といった問いかけを行います。
- ジェスチャーや絵、表情など、言葉以外のコミュニケーション手段について話し合い、実際に簡単なメッセージを非言語で伝えるゲーム(ジェスチャーゲーム、絵しりとりなど)を行います。
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自分たちの言葉について考える:
- 「ありがとう」や「ごめんなさい」など、感謝や謝罪の気持ちを伝える様々な言葉や表現方法(丁寧な言い方、友達への言い方など)があることに目を向けさせます。
- 同じ言葉でも、言い方一つで相手の気持ちが変わることを、簡単なロールプレイングなどで体験させます。これは、言葉の選び方や伝え方が人間関係にどう影響するかを学ぶ大切な機会となります。
子どもたちへの問いかけ例:
- 「みんなが知っている外国のあいさつはあるかな?」
- 「世界中の色々なあいさつを知って、どう思ったかな?」
- 「どうして国によってあいさつが違うんだろうね?」
- 「言葉が通じなくても、気持ちを伝える方法は何かあるかな?」
- 「もし言葉が違う人と友達になったら、どんな工夫ができるかな?」
- 「同じ『ありがとう』でも、どんな言い方があるかな? どんな言い方で言われたら嬉しいかな?」
これらの活動や問いかけを通じて、子どもたちは言葉の多様性とその背景にある文化に気づき、異なる言葉や文化を持つ人々への興味や理解を深め、コミュニケーションの面白さや難しさ、そして互いを尊重しようとする姿勢を育むことができるでしょう。
まとめ
「あいさつ」という日常的な行為の中に、世界の多様性と平和な共生のための大切なヒントが隠されています。様々な言葉や方法で行われるあいさつを知ることは、子どもたちにとって世界の広がりを感じ、自分たちの文化や価値観が唯一絶対のものではないと気づく貴重な機会です。
この学びは、単に知識を増やすだけでなく、言葉や文化の違いを面白いと感じる心、言葉が通じなくても相手を理解しようと努める姿勢、そして多様な人々とともに生きていくための共感力やコミュニケーション能力を育みます。
ぜひ、子どもたちと一緒に世界中の「あいさつ」の扉を開き、言葉の多様性から広がる豊かな世界を感じてみてください。この経験が、子どもたちの心に多様性を認め、平和な世界を築くための種を蒔くことにつながることを願っています。